インタビュー連載 大後監督に聞く

第1回“人と技術を育てる”会社の姿勢どおりにチームを強化します! インタビュー・文◎小林信也

 
2006年7月に、東京電力グループの「シンボリックスポーツ」となった長距離・駅伝チーム。
今年度、ニューイヤー駅伝出場を目標にチームを率いる大後茂雄監督は、東京電力の生粋の技術系社員という経歴を持っている。
社会生活に欠かせない電気をお客様の元へ届けるために、社員のひとりひとりが責任を果たし、次の職場へとつないでいく・・・。
その電力事業の現場で培われた経験は、 “人と技術を育てる”という指導者としての理念と独自の指導法に活かされている。


大後監督
大後茂雄(だいご・しげお)
1967年10月5日、神奈川県生まれ。東電学園高等部で電気事業に必要な基礎を学び、生粋の技術系社員として東京電力でのキャリアをスタートさせる。神奈川支店時代には、設備管理業務などに就きながら、コーチとして陸上競技にかかわり大きな結果を残した。2001年に東京電力長距離・駅伝チームのヘッドコーチ就任、2005年には監督に就任。技術系社員として培ってきた独自のアプローチで、「ニューイヤー駅伝」出場を目標にチームを指導する。実兄は神奈川大学陸上競技駅伝チーム大後栄治監督。

「都心への電気の“大動脈”を
 支える仕事を担当していました」

――大後監督は、これまでどんな仕事をされていたんですか?

大後:発電所でつくられた大量の電気を都心へ送り出す地中ケーブルの点検・メンテナンスなどの仕事を担当してきました。たとえば、ケーブルは送電する際に熱が出るため、冷たい水を周りに流すこともあります。冷やさないとケーブルが熱くなり、多くの電気を送れないんですよ。冷却水をつくる冷却システムなどの設備の“息遣い”に常に気を配っていました。もしトラブルが発生したらすぐに対応しなければなりませんし、トラブルに対応できなかったら送電が止まってしまう。発電所を停止する事態になったら大変です。責任の重さをいつも強く感じていましたが、都心の電気を支えていることを実感でき、とてもやりがいを感じていました。

――東電陸上部の指導に関わったのは?

大後:勤務していた神奈川支店でずっとコーチをしていました。フルに仕事をやって、限られた練習時間でしたけど、もともと他のスポーツをやっていた選手をみっちり指導して、ボストンマラソンで「日本人4番」に入れたんです。その選手が東電陸上部の中でも、箱根駅伝経験者をしのぐエース的存在になったこともあり、「大後に文化会陸上部のコーチをさせよう」と誘ってくれたみたいです。

大後監督
選手を指導するときと同じように、分かりやすい言葉で語ってくれた大後監督

「技術系社員としての経験が、
 陸上の指導に生きています」

――他企業の陸上部監督は、大後監督のような経験はほとんどないと思います。仕事の経験は、陸上を指導する糧になっていますか?

大後:なっていますね。「どうすると定格のパワーが出るか?」設備も人も一緒なんですよ。よく「世界一の戦闘機」と呼ばれたゼロ戦の話をするんですけど、軽く作っただけでは早く飛べないんです。速く飛べるためにボディーにビスを打って強度を増さなければならなかったんです。長距離選手も一緒で、速く、長く走るには対策が必要です。走るトレーニング以外に、トレーナーの発案したチーム全体で行う基本エクササイズに加え、選手個々のストロングポイントを強化する個別のエクササイズにも取り組んでいます。どんな手を打たなければいけないのか?という部分について仕事の経験が陸上にもすごく生きています。

大後監督
大会時は観客席でレースに目をやり、選手の一挙手一投足を詳細にチェックしている

――考えてみれば、人が走るのも電気と同じ、エネルギーそのものですね。

大後:技術系でなかったら、こういう発想で選手を見てなかったでしょうね。仕事の現場では、音とか匂いとか、雰囲気を感じなきゃいけない。だからグラウンドでも、選手の様子や変化をよく見ていますね。ストレッチの角度がいつもと違うとか、すぐわかるんですよ。「背中、回旋しづらくなってるでしょ」とか、「呼吸、しづらくないか?」とか。

――シンボリックスポーツになったとはいえ、チームを強化するのは大変でしょう。戦力充実のために、どんなビジョンを持っておられますか。

大後:既に実績のある外国人選手などを連れてくれば一番手っ取り早いんですが、そういうやり方はしなくていいと思っています。うちの会社は、「人と技術を育てる」という方針が明確にありますから、「速い選手を集めて勝つ」より「会社で伸ばして勝つ」。東京電力の長距離・駅伝チームは、焦らずしっかりと選手をサポートしながら、「東京電力グループのシンボリックスポーツの名に恥じないチーム」に育てていきたい。

――学生時代に有名でなくても、「東電に入ってめきめき伸びた」と言われるような選手たちがそろうといいですね。女子マラソンで言えば有森裕子選手や高橋尚子選手みたいな。

大後:そういう選手は必ずいるはずです。まだ結果が出ていないけれど「素材のいい選手」って、いっぱいいますよ。そういう選手たちを、僕らは、社会人として、企業人としても立派に活躍できる優れたアスリートに育てていきたい。引退後もきちんと仕事ができる、それぞれの職場で陸上の指導もできるような、そういう人材を輩出する長距離・駅伝チームでありたいと考えています。

――そういうチームをめざしているのは、社会全体から見てすごく意義のあるチャレンジだと思います。

大後:それが『東京電力 長距離・駅伝チーム』の目指す方向だと思います。僕はもともと東電の社員です。東電に愛着を持っているだけに、そこを大切にしたいんです。

大後監督
選手を指導する上で、技術者として築き上げてきた自分の経験が大きく役立っているという

「東電らしく、育てて勝つことに意義がある」

――とはいえ、「今年こそニューイヤー駅伝に出て欲しい」と、周囲の期待はふくらんでいます。

大後:もちろん、そのために着実に手をうってきているつもりです。「運動」「栄養」「医学」面からトータルサポートを行っているグループ企業「スポーツプレックス・ジャパン」の協力を得て、NATA資格を有する経験豊富な専属トレーナーも今年から登用していますし、アスリート用の食事・栄養管理サポートや、最新のトレーニング設備を完備した青山の選手専用寮の利用も開始しています。質・量ともにレベルの高い練習に選手が専念できるこうした環境整備が進んできており、選手たちも、ニューイヤー駅伝出場に向けて、目の色を変えて練習に取り組んでいます。
でも他のチームも必死ですからね。予選会を突破するのは簡単なことではないと思っています。「育てて勝つ」というスタイルをベースに、多くの方の期待に応えられるよう全力を尽くしていく覚悟です。
今年の決戦の舞台となる東日本実業団対抗駅伝大会は、11月11日(日)、千葉ニュータウン周回コースで行われます。応援していただいているみなさんと「ニューイヤー駅伝」出場権を勝ち取る感激を一緒に味わえるよう、頑張っていきたいと思っています。


▼小林信也(こばやし・のぶや)/作家・スポーツライター
スポーツ選手はもとより、スポーツの裏側で情熱を燃やすコーチ、トレーナーら陰の功労者たちの活躍ぶりを描くノンフィクションに定評がある。主な著書に、『古伝空手の発想』(光文社新書)、『長嶋茂雄からのメッセージ』(東邦出版)、近著に『高校野球が危ない』(草思社)がある。TBSラジオ『ニュースプラザ』など、多くの番組でコメンテーターも務めている。

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