インタビュー連載 大後強化部長に聞く

“人と技術”を育て、チームをさらに強くするための新体制。長期的な視点で着実にチームの底上げを目指す

 
昨年11月に行われた「第48回 東日本実業団対抗駅伝競走大会」では、惜しくも順位ひとつの差でニューイヤー駅伝の出場権獲得を逃した、東京電力 長距離・駅伝チーム。
東京電力グループのシンボリックスポーツとして、ニューイヤー駅伝出場を目指してきたこの1年を振り返ってもらい、強化部長としての今後の抱負を語っていただいた。


大後強化部長
大後茂雄(だいご・しげお)
1967年10月5日、神奈川県生まれ。東電学園高等部で電気事業に必要な基礎を学び、生粋の技術系社員として東京電力でのキャリアをスタートさせる。神奈川支店時代には、設備管理業務などに就きながら、コーチとして陸上競技にかかわり、技術系社員として培ってきた独自のアプローチで、大きな結果を残した。2001年・東京電力 長距離・駅伝チームヘッドコーチ、2005年・監督。2008年4月からは、強化部長兼コーチとして、谷口新監督を支える。実兄は神奈川大学陸上競技駅伝チーム大後栄治監督。
 
07東日本駅伝
昨年の東日本実業団駅伝、2区阿江から3区森田へルーキーの襷リレー。新人選手たちは今後に期待を抱かせる走りを見せた
 
大後強化部長
新人選手たちの話になると、大後監督は笑顔を見せた
 
07日本選手権
1,500mで日本トップレベルの選手に成長した佐藤健太。新シーズンでも活躍が期待される
 
08全日本実業団ハーフ
3月16日の全日本実業団ハーフマラソンでは、村井勇二が自己新の走りを見せるなど、選手たちは着実に成長を遂げている

「駅伝の怖さを実感した昨年の東日本実業団駅伝。
 でも今年は間違いなく結果が出せる」

4月から大後前監督はコーチ兼任の強化部長となり、世界陸上東京大会金メダリストの谷口浩美氏を監督に迎えた新体制でチームが再スタートを切ることになった。
強化部長として、チームを中長期的な視点でマネジメントすることになる大後氏に、まずは、惜しくも敗れた第48回東日本実業団対抗駅伝競走大会(東日本実業団駅伝)を振り返ってもらった。

チームを編成する上では、原田恵章、中村洋輔といった主力選手の離脱がやはり痛かったですね。でも負けるとは思っていませんでした。東日本実業団駅伝を走った新人の阿江匠、宮城普邦、森田圭祐もかなりいい練習ができていました。そういう意味では、きちっと積み上げができて臨めたチームではありました。

やはり1区で波に乗りたかったですね。1,500m国体チャンピオンの佐藤健太が、うまくいけば3番くらいで2区の阿江につなぐと考えていたのですが、ライバルチーム全部に先を行かれました。タイム的には先頭と22秒差ですけど、2区、3区と新人を起用しましたから、追う展開ではきつかったです。佐藤は、トラックからロードへの適応がうまくいかなかった。レースのテンポも遅かったんですね。そのペースにはまって、彼のスピードを活かせなかった。これが駅伝というものなのか、とあらためて実感しました。

あれから4ヵ月。冬の走り込みはうまくいきました。東日本実業団駅伝で走ることができなかった主力選手たちのリカバリーもすでに終えています。今年の東日本実業団駅伝では間違いなく結果が出せるだけの積み上げをして来た自負があります。

「新人は、シンボリックスポーツ一期生。
 強さと可能性を持ち合わせた選手たちが揃った!」

今年加入する新人4人は、すでにチームに合流して練習を始めている。松本翔(東大卒)、亀田健一(慶應大学院卒)は、学連選抜チームで、橋本圭史(城西大卒)、柳沼晃太(法政大卒)は、それぞれ各大学の中核選手として、いずれも大学時代に「箱根駅伝」を走った経験と実績の持ち主だ。

今年の新人は、シンボリックスポーツになってから採用されたいわば一期生です。それだけに、入社時からこれまで以上に大きな“期待”を背負っていることになります。その期待に応えられるレベルの高い選手たちが揃いました。

松本と亀田のふたりは、箱根駅伝の常連となっているような大学で厳しい練習を積んできた選手ではありませんが、それぞれのチームをエースとして引っ張ってきた力や潜在能力があり、今後の成長が楽しみです。橋本は無口ですけど、気持ちが強い。箱根駅伝で他のランナーと接触してシューズが脱げてしまってもめげずに走り続ける強さがある。何メートルかシューズが飛んだと、大学の監督さんから聞きました。それでかなりタイムをロスしたし、リズムも崩したはずです。でも橋本は決して自分からそれを言いません。実力がなかったから負けたと。言い訳しない。そういう選手は強くなります。柳沼は箱根駅伝で区間賞を取っているのですが、まったく天狗になっていない。これも伸びる要素のひとつです。

東京電力グループのシンボリックスポーツとして
『人と技術を育てる』ことがチームの理念。
そのためには新しい体制が必要だった

東京電力グループ各社に勤務している選手たちは、シンボリックスポーツという枠組みの中で、チームとしてグループ全体に活気を与える役目を担っている。それを実現するため、谷口浩美という強い求心力を持つ存在が必要だとの判断もあった。強化部長となる大後“前”監督に、率直な思いを聞かせてもらった。

監督は責任の重いポジションですが、その分、とてもやりがいがあります。練習環境も徐々に整い、去年8月に青山寮に移ってから練習量がグンと増えました。その成果が出るのもまもなくだなと思っていたので、「監督でもう1年勝負がしたい」という気持ちは正直ありました。けれど、東京電力グループの多くの社員の求心力となることを求められているシンボリックスポーツとしての使命や、『人と技術を育てる』という、他の実業団にはない独自の姿勢を持ったチームを長い目で育成・強化するには、新しい体制が必要だと考えました。

うちのチームは、東京電力グループ各社の理解と協力により成り立っています。今年度は9社に選手が勤務することになります。選手の職場のみなさんにいろいろと調整してもらうだけでもかなりの時間を要します。

いままでは監督業務と、職場との調整業務も併せてやっていましたが、もっとたくさんやるべきことがあると感じていました。東京電力グループの社員であり、監督の経験もある私のような人間が強化部長としてこうした調整の役割も担うことで活動がさらに充実するし、いろいろな可能性が広がると思います。

今まではインターハイを見に行く余裕もありませんでした。インカレも全部は行けなかった。これからは新人発掘にも十分な時間を使えます。新監督との相談にもなりますが、ゆくゆくは高校生を採用して育てていく、うちならではの路線を作ることもありえると思います。

「ニューイヤー駅伝に集う強い実業団チームと互角に戦いたい。
 すでにそのためのプログラムはスタートしている」

3年連続して、僅差でニューイヤー駅伝出場を逃している東京電力 長距離・駅伝チーム。今年こそはと、誰もがチームに大きな期待を寄せている。強化部長として、新シーズンにはどんな展望を抱いているのか。最後に、抱負と展望を聞かせてもらった。

谷口新監督には、『人と技術を育てる』というチーム方針に共感していただいています。この方針のもと、新監督のノウハウが加われば、必ず強いチームになります。

私は強化部長になりますが、まるっきり現場から離れるのではなく、兼任コーチとして指導にも携わります。これまで指導してきた流れ、チームが大切にすべき基本姿勢などは、東京電力の社員である立場から、できるだけ伝えていくのが私の務めだと思っています。 今年のチームの目標はもちろん、予選会をきちんと通ってニューイヤー駅伝に出ること。それ以上に大切なのが、「ニューイヤーに集う強い実業団チームと互角に戦うこと」です。

すでに、来年1月1日にニューイヤー駅伝で戦うためのプログラムを1月からスタートしています。チームの新しい目標は、ニューイヤー駅伝出場することではなく、そこで戦うことです。その目標を達成できるだけの積み上げを、これまで積み重ねてきました。今シーズンは必ず達成できるはずです。


▼小林信也(こばやし・のぶや)/作家・スポーツライター
スポーツ選手はもとより、スポーツの裏側で情熱を燃やすコーチ、トレーナーら陰の功労者たちの活躍ぶりを描くノンフィクションに定評がある。主な著書に、『古伝空手の発想』(光文社新書)、『長嶋茂雄からのメッセージ』(東邦出版)、近著に『高校野球が危ない』(草思社)がある。TBSラジオ『ニュースプラザ』など、多くの番組でコメンテーターも務めている。

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